初任給おめでとうございます。

一部の職を除いて、こんな不安な中での給与ですが

一生に一度の初任給です。

おめでとうございます。

働いた実感がないかもしれないし、

このまま居た方がいいのかとか

いっそ別の道を考えるのか

とりあえず、なにか副業の道を模索するのか

いずれにしても、自分で考えて、心許す人に相談して

これからを決めてください。

慌てないで、何度か転んで

そして立ち上がって歩いてください。

その為に使えたらいいですね。初任給。

 

昔々のはなし。

 

町の商店に借金を残したまま、高校を卒業した18歳がいました。

北国の冬の授業はスキーで、

高校1年の時に学校が町のスポーツ品のスキーを斡旋するので

多くの学生はそのスポーツ品店でスキーひと揃えを買うことになる。

18歳は勉強が出来なくても、運動はなんでも出来るので

喜々としてスキーを買ってもらった。

学校を介しての「掛け」で。

 

数万円したそのスキーの代金のうち、

一部は返済をした。

でも、一部だけ返済して、残りを親が払ってくれなくなった。

いろいろと複雑で、名ばかりの親と

あとから入ってきた他人親子の中で

18歳ははじかれて、そこに居場所がなくなった。

いつの間にか、食べる、学校に通う以外のお金は

自分には回ってこなくなった。

 

アルバイトをしたら良かったのだろうけど

厳しい部活にいて、責任があって

何より本人が部活に燃えていたので

部活の引退まではバイトはしないと決めた。

 

秋の部活を引退して、数少ないバイトもしたけど、

バイトの微々たるお金は本や遊興費に消えた。

学校の担任には、何度か言われた。

「スキーの代金、まだ残っているだろ。早く払ってほしいって言ってる」

 

1年の時の掛けを3年の冬になったもまだ払えずにいる。

17000円。まだ消費税なんて、名前も存在していない時代の17000円。

大きい。

担任を介して、2年以上催促を受けた。

その度に「わかりました」と言ったけど、

親に言っても出してくれるお金ではないから

いつか、自分でなんとかしようと思っていた。

ただ、卒業して自分で稼がないと、なんともしようがない事はわかっていた。

 

卒業が近くなって、担任は何も言わなくなって。

大人になって考えれば、貸し倒れの処理でもしたのかと思う。

担任も、家の事情を知っていたから

密かに、待ってほしいと言ってくれていただろうとも思う。

 

そして、卒業。

ごく普通の笑いや涙の卒業だったけど、18歳は次に進む道に

思いを向けていた。

幸い、大手の企業に決まっていたので

そこでしっかり働いて、まずはお金をもらおう。

 

3月雪の中、特急列車に乗って、新天地に着いた。

姉のアパートに居候して、4月から会社に通った。

18歳は意外すぎるほど真面目なので

「遊ぶ」という行為はまったくしなかった。

覚えることもたくさんあって、真面目に働いた。

 

そして、4月25日。

初めての給料が銀行に振り込みをされた。

ほぼ半月分なので、額面は少なかったけど。

 

本当にお金が入っている…

働いたらお金って稼げるんだ…。

 

18歳はふたつだけ、使い道を決めていた。

一応のお決まりで、親に何かをプレゼントする。

それともうひとつは

ずっと払えずに、見た目は「とんずら」してしまった

あの、17000円を支払う事。

ずっと、悩み続けたあの17000円を払うことだ。

 

初任給から、初めての休みの日。

18歳は先月まで住んでいた町に帰った。

 

封筒に入れた17000円を持って

町中にある、スポーツ店の前に行く。

ドキドキした。足がすくんだ。

自分はずっと払わずに逃げた悪いヤツだから

さげすまれて、文句を言われて

みじめになって、きっとここから出てくるんだろうなぁ…

そんな思いで、逃げそうになった。

でも、ここで逃げたら、いつまでも悪いヤツだ。

 

思い切って、中に入ったら、

何度も学校で見かけていた店主さんがいた。

いつもながら、眼鏡でやさし気な雰囲気だった。

 

〇〇高校を先月卒業した△△です。

ずっと残っていたスキーの代金を持ってきました。

長い間、申し訳ありませんでした。

17000円を渡しながら、頭を下げた。

 

よく話せたと思うくらい、緊張していた18歳。

これから何を言われるかと、さらに緊張が増す。

 

店主さんは、その話を聞いてすぐに

17000円を受け取り、領収書をだして

サラサラと記入し、

ありがとうございました、と言って18歳に領収書を渡した。

それ以外の言葉はひと言もなかった。

 

表に出た18歳は拍子抜けをした。

何も言われなかった。

苦情も言われなかった。

普通にありがとうと言われた。

あまりの意外さに、18歳は駅に向かってトボトボ歩いた。

 

トボトボ歩いていたけど、

18歳は心にずっと刺さっていた、大きなトゲがぬけて

安堵で、ズブズブと地面に吸い込まれるような気持ちになっていた。

 

これからは自分の為にお金を使えるようになりたい。

 

18歳にとってこの話は恥以外の何ものでもなくて

人に言わず、そしていつか忘れた。

何かの拍子に思い出した時に

何も言わずに受け取ってくれた店主さんの優しさに気づいた。

担任の追いこまないで、卒業させてくれた優しさにも気づいた。

 

18歳はずっと大人になってから

親友にこの話をした。

親友は言った。

 

お店の人には、よく払いに来てくれたね、って

ひと言言ってほしかったなぁ。

 

そんなひと言が無かったことで、18歳は救われたのだと思う。

 

 

これから長い社会人。

泣いて、笑って、頑張ってください。